研究概要 |
本研究では、分極により大きな表面誘起電荷が得られるイオン電導性セラミックスを応用し、骨組織伝導が制御できる新規生体材料を開発することを目的として、分極イオン電導性セラミックスの骨類似アパタイト伝導メカニズムの解明、接着性細胞外基質の吸着実験ならびに培養細胞系及び動物実験系による生物学的評価を行うことを目的としている。 今年度においては,まずイオン電導性セラミックスとして水酸アパタイトを選定し,分極処理をした水酸アパタイトが体内に埋入に埋入された場合に起こるごく初期の反応について検討した。分極処理水酸アパタイトをラットに埋入し5分後に引き抜き,その表面を観察した。分極した水酸アパタイト表面には網目構造を形成している微細な繊維組織が吸着していた。この吸着現象は,表面に誘導されていた電荷の極性に寄らず観察されたが,分極処理を行っていない水酸アパタイト表面では観察されなかった。この微細繊維組織は免疫染色法による検討の結果,フィブリノゲーンであることがわかった。従って,表面に誘起された電荷は生体内における水酸アパタイトの表面吸着機能を変調させていることがわかった。 次に,水酸アパタイトが示す強化された骨伝導能を定量的に評価するために,伝導された骨量の測定を行った。イヌの大腿骨ならびに脛骨に分極した水酸アパタイトを埋入し,セラミックスと介在物なしに接触している骨組織の辺縁長を画像解析により計測し,伝導された骨組織量を見積もった。その結果,埋入1〜4週後の期間においては,伝導された骨量は負電荷が誘起された水酸アパタイト面上が最も多く,次いで正電荷が誘起された水酸アパタイト面上が多く,未分極の水酸アパタイト面上では最も少ないことが統計的に示された。以上より,分極により分極処理により誘起された電荷が,水酸アパタイトセラミックスの骨誘導能を強化することが定量的にも実証された。
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