研究概要 |
MOCVD法を用いて酸化物薄膜を合成する際,薄膜形成の際に基板との間で複雑な反応を起こすと予想されているが,実際には酸化物薄膜の合成に用いられる様々な有機金属化合物原料の性質はほとんど調べられておらず,実用的な酸化物薄膜合成に向けて必須の研究対象と言える.そこで,強誘電体薄膜を例に,有機金属化合物原料から目的酸化物薄膜が構築されるメカニズムの解明を行い,酸化物薄膜形成のメカニズムについて検討している. 平成16年度は最終的なターゲットであるPZTの前段階のモデルシステムとしてPbTiO_3薄膜を採用し,縦型Cold Wall式MOCVD装置において,基板直上の気相中における有機金属原料の状態をFT-IR透過法観察し,さらに成膜中の基板表面を直接in-situ FT-IR RAS法で観察することで成膜挙動を検討した.また各有機金属原料の固有の赤外吸収と平衡状態におけるその変化を昨年度に設置したインライン用長光路ガスセルにより観察した. 有機金属原料として鉛β-ジケトン錯体(Pb(DPM)_2)とチタンテトライソプロポキサイド(Ti(O-i-C_3H_7)_4:以下TTIP)を用いてMgO(001)単結晶基板上に成膜を行った.Pb(DPM)_2,TTIPの気化温度を120,40℃とし,チャンバー内でO_2を供給しPb/Tiを変化させ650℃で成膜を行った。この時の基板直上気相及び基板上をin-situ透過及びin-situ RAS法により観察した.また,成膜温度を変化させた時の基板上気相赤外吸収変化を120℃〜700℃で観察した.650℃成膜において,Pb/(Pb+Ti)=0.5で行ったとき定比のPbTiO_3薄膜が得られた.Pb/(Pb+Ti)=0.3とTiの供給を過剰に行った場合,TiO_2+PbTiO_3が得られたが,Pb/(Pb+Ti)=0.7とPbの供給を過剰に行った場合,PbTiO_3のみが得られた.これは過剰のPbの再蒸発によるPbTiO_3の自己組成制御性を示唆するもので,ガスセル内にPb(DPM)_2とTTIPを混合し封入し加熱すると,Pb(DPM)_2の1600cm^<-1>付近の吸収が消滅し,1260cm^<-1>付近に新たな吸収が観察された.これからPbとTi原料が相互作用を起こし,中間体が生成していることが予想される.考えられる中間体の赤外吸収を分子シュミレーションソフト(Win games & Facio9.6.2)により計算したところ,Pb-O-C-Ti結合を持つことがわかった.また,ガスセルと同様な条件で,O_2を供給した場合,しないときに比べ,比較的低温においても赤外吸収が弱く,酸化の影響で分解進んでいることが考えられる.チャンバー内では基板温度200℃〜500℃で中間体は比較的安定して存在して,この中間体が自己組成制御性に影響を及ぼすと考えられる.しかし,RAS法による基板上の観察において有機金属原料,中間体などの吸収は見られなかった.このことから基板上では中間体などは瞬間的に分解し,吸着していないと考えられた.
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