研究概要 |
高誘電率を持つ誘電体ナノ粒子として、チタン酸バリウムを選択し、蓚酸バリウムチタニルを原料とする2段階熱分解法を更に改良することで、一回の合成で100gのチタン酸バリウムナノ粒子の合成が可能となった。この改良方法では、真空処理は670℃、3時間行うだけで、その後大気雰囲気中で通常の高温熱処理を行うことで、粒子径を制御した。しかしながら、以前行っていた真空中で高温で熱処理して得られたチタン酸バリウムナノ粒子とは異なる比誘電率のサイズ依存性を示した。以前のやり方で合成した場合には、粒子径70nmで、比誘電率は15,000という最大値を示したのに対し、今回の方法で合成した場合には、粒子径140nmで、比誘電率は5,000で最大値を示した。そこで、この原因を明らかにすべく、高輝度放射光を用いた精密構造解析を行った。その結果、これまで考えられてきたチタン酸バリウムのサイズ依存性とは異なり、室温で強誘電体相である正方晶構造が常誘電体である立方晶構造に変わる粒子径である臨界径が、20から40nmの間にあること、そして、比誘電率が最大を示す粒子の結晶構造は、正方晶性が本来の1.011より少し低い1.0066付近にあること、そしてこの前後において、結晶構造、電子密度分布とも何ら特異的な異常を示さないことを見いだした。なお、ここで得られた結晶構造は、前回の比誘電率が15,000を示した70nmのチタン酸バリウムナノ粒子の結晶構造に類似していることがわかった。また、結晶構造に最も大きな影響を与えると考えられる格子振動の状態を見積もるため、ラマン散乱測定を行い、精密な格子振動解析を行った。その結果、ソフトモードについては装置の限界で観測できなかったものの、それ以外の振動モードに関しては粒子径の減少にもかかわらず、格子振動数が全く変わらないことを見いだした。この現象はこれまで考えられてきた強誘電体の相転移現象とは完全に異なる現象であることを見いだした。現在、この現象を説明するためのモデルについて考察を行っている。また、これとは別に、有機無機ハイブリッドインクは、有機溶媒にプロピレンカーボネイトという物質を用いることで全くチタン酸バリウムにダメージを与えず、また分散性も良いことを見いだし、順調に作製は進んでおり、すでに10vol%までの濃度で十分にナノ粒子が分散したインクの作製に成功した。インクジェット式プロッターについては作業は順調に進んでいるが、完全には完成しておらず、来年度早々に完成する予定である。
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