研究概要 |
本研究課題では、伝導帯の底部でs軌道とd軌道あるいはs軌道とf軌道の各軌道のエネルギーが近接し、それらがハイブリッドしたバンドを形成する物質を設計、合成し、エネルギーバンドの解明と伝導性の付与および強磁場下における伝導性の測定を通して、新規な特性を有する酸化物電子伝導体の開拓を目指した。その成果として、パイロクロア型Sn_2M^V_2O_7(M^V:Nb,Ta)の低温酸化により、Sn^<IV>とM^Vが規則配列しSn5s軌道とNb 4d軌道、Sn 5s軌道とTa 5d軌道のエネルギーが近接した準安定な新しい複合酸化物SnMO_<4+x>の合成に成功した。それら新規な複合酸化物の結晶構造を明らかにし、相変化メカニズムを提案した。SnTaO_<4+x>とSn 5s軌道とCe 4f軌道がハイブリッドしたCeSnO_4では、水素雰囲気中での熱処理により酸素空孔を生成し、それによる電子ドープに成功し、ハイブリッド伝導帯を有する電子伝導性酸化物を得ることができた。磁場との相互作用による新規な特性の発現を期待し、これらSnTaO_<4+x>とCeSnO_4の7Tの磁場下での伝導性を研究したが、残念ながら特異な性質を見出すには至らなかった。これは、伝導帯での各軌道のハイブリッドがそれほど強くないことに起因するものと推察された。一方、蛍石型構造のSnTaO_<4+x>を還元すると670Kから酸素を放出しパイロクロア型酸化物へと相変化すること、同じ組成であってもα-PbO_2構造のSnTaO_<4+x>では相変化がより高温の820Kから起こることが示され、本研究により合成方法が確立された新物質が、その化学的性質においてユニークな振舞いを示すことが明らかとなった。
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