研究概要 |
ITOは,In_2O_3とSnO_2からなる固溶体で,携帯電話やパソコンの液晶ディスプレイの透明電極として使用されている.ドーパント,Snは,InサイトにSn^・_<In>として置換する.また,電荷補償のため,侵入型酸素欠陥(O^"_i)が形成されている.これらは,バンドキャップ中に,Sn^・_<In>ドナー準位やO^"_iアクセプター準位を形成する。これらの不純物準位が,電気伝導性を与えている.しかし,これらの不純物準位は,可視光の吸収原ともなるため,これらの電子配置を調べる必要がある.電子配置は,配位子場分裂に依存することから,Sn^・_<In>とO^"_iの配置と直接関係がある.前年度の研究では,ITO固溶体のSn^・_<In>とO^"_iの存在状態を熱力学的に検討するため,絶対零度付近(3K)から室温まで,熱容量,C_<p'>の測定を緩和法によって行い,298Kにおける混合のエントロピー(Δ_<mix>S_<298>)を決定した. 本年度は,2種類のITO固溶体,In_<0.388>Sn_<0.010>O_<0.602>およびIn_<0.383>Sn_<0.014>O_<0.603>のC_pを,1350Kまで決定した.この高温C_pには,本申請研究において導入の特殊な熱流束安定型装置を用いた.本年度の高温C_pと前年度の低温C_pとを組み合わせ,熱力学第3法則に基づき,基準状態を純In_2O_3とSnO_2とするΔ_<mix>Sを決定した. Δ_<mix>Sは,高温まで,負の値を示すことが分かった.この理由は,Sn^・_<In>とO^"_iが短範囲に規則して,振動のエントロピーが減少するためである.ITOは,スパッタリングや蒸着法により,ガラス基盤上の薄膜として製造されている.この成膜過程は,運動エネルギーの高い高温状態から低い低温状態への変化とみなすことができる.Δ_<mix>Sが高温まで負の値であることは,成膜過程においてもSn^・_<In>とO^"_iが短範囲に規則化し易いと解釈できる.この短範囲規則化が,バンドギャップ中のSn^・_<In>準位とO^"_i準位を縮退させ,可視光の吸収を防ぎ,高い透明性と伝導性を兼備させていると結論する.
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