本年度は、SrTiO_3双結晶試料の粒界電気特性に及ぼす点欠陥の効果について、主に、計算的手法をもとにしたモデル計算と測定された電気特性との相関性を調べた。導入される点欠陥濃度と電気特性に現れる非線形性との相関性を調べるために、傾角成分の少ない双結晶を作製し、その粒界構造と、双結晶接合後の冷却速度依存性とを系統的に調べた。その結果、まず、粒界転位は刃状成分から構成されるバーガースベクトルを有した線状転位であり、その密度は傾角成分に依存し、傾角が大きくなるに従い増加することが明らかとなった。また、転位密度の異なる複数の粒界について非線形特性を調べたところ、非線形性は転位密度と相関性を有していることが見出され、密度が増加するに従い非線形性が増加することが分かった。これは、転位を基点とした点欠陥の生成消滅挙動と密接に関係するものと考えられる。一方、接合後の冷却速度依存性を変化させた試料について、非線形性を調べたところ、冷却速度が低下するに従い非線形性が顕著となることが分かった。冷却速度の変化のみでは粒界構造は変化しないものと考えられるため、この非線形特性に見られた変化は、粒界構造に起因すると考えるよりはむしろ粒界を生成消滅サイトとした点欠陥によるものであると考えられる。第一原理計算を使用してSrTiO_3中の点欠陥についてその形成エネルギーを酸素分圧に対して見積もった。その結果、通常の熱処理条件下では、陽イオン空孔のうちSr空孔の形成エネルギーが低いことが見出され、この陽イオン空孔が粒界静電ポテンシャル障壁形成の起源と深く関与するものと考えられる。
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