研究課題
基盤研究(B)
1.目的将来の電子情報通信機器ではさらにモバイル・ウエアラブル化が進み、希土類磁石にもさらに小型化、薄型化が要求されている。本研究では、ナノメータオーダーの微粒子から構成される厚膜を5〜50μm/minとスパッタ法の500〜5000倍の速度で作製できるエアロゾルデポジション(AD)法を用い、従来薄膜技術ではカバーできない数μm〜500μmの範囲の膜厚を作製し、高性能厚膜磁石を作製することを目的とした。2.結果(1)Sm-Fe-N系粉末を用いたAD膜の成膜と磁気特性:ガラス基板では10分間の成膜で膜厚45μm程度、成膜速度も10μm/minであったが、ブラス基板では膜厚190μm、成膜速度も15〜19μm/minと増加した。得られたAD厚膜の磁気特性は残留磁束密度Jr=0.4〜0.6T、保磁力μ_0H_<cJ>=1.6〜1.8T程度であり、原料粉末よりも高保磁力であった。マイクロビッカース強度HVも500〜700程度で十分な強度を示した。AD厚膜にはSm_2Fe_<17>N_x相と微量のα-Fe相が存在し、原料粉末よりも1オーダー小さい200〜400nmの結晶粒から構成されていた。(2)Sm-Fe-N系AD膜の異方性化:基板の側面にNd-Fe-B系焼結磁石同極対向配置ならびにソレノイドコイル使用によって面直方向、焼結磁石異極対向配置によって面内方向に結晶配向することが可能であることがわかった。特に膜面内方向では印加磁界0.19Tにおいて0.54Tなる残留磁束密度Jrが得られ、無磁界の場合(0.42T)と比較して約29%高い値を示した。(3)Fe_3B/Nd_2Fe_<14>BナノコンポジットAD膜の可能性:原料粉末は、ヒステレシス曲線やXRD解析などからFe_3B相とNd_2Fe_<14>B相からなるナノコンポジット磁石粉末であった。しかし粉末の平均粒径が12.45μmとこれまでのSm-Fe-N系粉末よりも大きく、このため厚膜が成膜しづらかった。as-depo状態のAD膜もFe_3B相とNd_2Fe_<14>B相から構成され、高い残留磁化を示したが、保磁力はH_<cJ>=0.84kOeと低い値であった。さらにアルゴンガス中で熱処理をしたが、さらに保磁力は低下した。これらの低保磁力は、Sm_2Fe_<17>N_x化合物に比べNd_2Fe_<14>B相の異方性磁界が低いこと、AD法の成膜過程で欠陥、歪が導入されること、成膜中または熱処理中にa-Fe相が出現することによるものと考えられる。
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