研究概要 |
永久磁石の飛躍的な性能向上をもたらした1970年代初頭に発見されたSm-Co系に端を発し,現在最強のNdFeB系に至るまで強力磁石はすべて希土類元素と鉄族遷移元素から成る金属間化合物(R-T化合物)が主体となっている.今後さらに強力な永久磁石が発見されることがあっても,それはやはり希土類磁石であるものと考えられ,希土類磁石が如何にエレクトロニクスの性能向上をはじめ,産業界の発展に寄与しているかが伺えるが,この磁石にも大きな泣き所がある.それは,希土類元素と酸素との親和力があまりにも激しいことに起因する酸化であり,また腐食しやすいことである.これをブレークスルーするためには,まず希土類磁石の腐食挙動を解明する必要があるが,あまりにも腐食が激しいため,電気化学的手法による基礎的研究は無理であるとされ,これまでのところ浸漬試験,所謂,どぶ漬け法による評価が主流である.筆者らはこれまでの直流を基本とする分極曲線による評価に代わる交流を基本とするインピーダンス法に基づくナイキスト線図による評価,特に新たに回転電極を使用する方法を開発した.今回検討している異方性を有する超強力ナノコンポジット磁石も希土類磁石であり,その腐食特性はNdFeB磁石と共通すると考えられる.そこで本年度は試料作製に好都合なNdFeB磁石の腐食特性の解明にあたった.その結果,通常の材料,例えば耐食性材料として著名なステンレス鋼のような場合には,カソード側に分極する電位を大きくするほど,腐食しやすくなりR_<ct>は小さくなるが,今回のNd-Fe-B合金では一旦増加した後,減少する結果となることが確かめられた.この要因については現在のところ不明であるが,この現象に起因するかのようにカソード側に大きく分極させた後の試料表面にはナノオーダーの極めて耐食性に極めて良好な薄膜が形成されていることが認められた。この結果は永久磁石に携わる研究者の長年の夢である腐食しない,錆びない希土類磁石作製に繋がる可能性がある.
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