可視光レーザーを用いた低コスト、高速かつ大面積の微細加工法の開発(熱リソグラフィー法:Thermal Lithography technique)を行った。通常レーザー光のスポット内強度は、スポット中心を最大強度とするガウス分布を示す。これが物質に照射されると熱に変換され、その熱の分布も同様な形状となる。従ってある温度以上の高温領域は、レーザースポット径より遥かに小さくできる。この領域に熱による物理的、化学的な反応を閉じこめ、微細加工に応用することを本研究の目的としている。 試料は、TeFeCoとZnS-SiO2からなる多層膜をガラスディスク上に形成した。TeFeCoとZnS-SiO2は200℃以上で相互拡散を起こし、体積が膨張する。上記の高温領域にこの熱反応を閉じこめ、試料表面にドットを形成することを試みた。試料を線速3m/sで回転させ、そこにパルスレーザー光を入射させた。パルス周波数15MHzで直径約100nm、30MHzで直径約50nmのドット列を作製することに成功した。ドット間の距離はそれぞれ200、100nmであり、用いたレーザー光波長(λ=405nm)と光学系の開口数(NA=0.65)から計算される回折限界310nm(=λ/2NA)より遥かに密で小さいドットの加工に成功した。ドットは線速3m/sの速度で加工しており、これは十分に実用的な加工速度である。更に、ドット列より複雑な加工として、試料表面に文字を描くことを試みた。直径およそ100nmのドットを整列させることにより、文字「AIST」(産総研の英語名の略称)を描くことに成功した。一文字の大きさは1μm角である。ドット列だけでなく、更に複雑な微細加工も可能であることを示している。 上記で作製されたドットの高さは最大20nmであり、最初の適用である光ディスクの原盤作製に適用するためには、これを2倍程度にする必要がある。このため、酸化白金層を新たに試料に加え、この層が熱分解し膨張する効果でTeFeCoとZnS-SiO2の体積膨張部分を持ち上げることを試みた。その結果、直径約100nmmで高さ40nmのドット列を作製し、高さの改善に成功した。
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