研究概要 |
本研究では,液体中の固体粒子の表面に表面張力勾配がある場合,固体粒子が表面張力の高いほうから低い方へ動く現象を実験的に証明することを目的とする.このため、干渉計を用いた温度勾配を与えた液体中での固体微粒子の運動のその場観察,原子間力顕微鏡を応用した固体微粒子に作用する力の直接測定などの実験を行う.本年度においては固体-液体界面でのマランゴニ効果の発現に関する理論的考察を行うことも研究目標とした.また,このような作用が生体内で、化学物質の放出による濃度勾配に起因して好中球が特定の方向へ運動を開始するという生体内情報伝達の基本的な機構と密接に関連している可能性が指摘され,このことを解明するために,生体内での化学物質の拡散の可視化と生体物質の運動との関連を調べた.その結果以下のことが明らかにされた. 1)温度勾配下の水中グラファイト微粒子の沈降速度は、等温水中での沈降速度より、遅くなる。グラファイト微粒子の沈降速度の低下量は、温度勾配及びグラファイト微粒子の粒径が大きくなるにつれて大きくなる。グラファイト微粒子の沈降速度の低下は、温度勾配に基づく界面張力勾配によって誘起される力(この場合、力は上向きに働き、沈降速度を遅くする)を考慮に入れて導出される式を用いて、説明可能である。グラファイト微粒子は、界面張力勾配に基づく力が粒子の運動の駆動力になり得るとみなすことができる。 2)AFM改良装置によるフォースカーブ測定結果より、温度勾配のもとでは殆んど影響をうけないPS粒子にかかる力に比べてグラファイト微粒子にかかる力のほうが大きい。 3)好中球を盒む分散物にサイトカイン(IL-8)を滴下することにより、好中球がサイトカイン(IL-8)濃度の高い方向に一様に動き出す様子が観察された。好中球が最も活発に動くサイトカイン(IL-8)濃度範囲は最も高い1000ng/mlではなく10ng/mlである。 以上の結果より、溶質の濃度勾配、温度勾配が形成される場合、それらの領域の微細固体粒子の運動は界面張力勾配に起因する力によって、支配的な影響を受けると結論することができる。また、これらの現象は材料工学分野だけでなく生理学的現象として医学分野にも広く関わる可能性が見出された。
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