研究概要 |
従来、アルコールの脱水反応は酸触媒により進行すると考えられて来た。これに対してMatubayasiらは、高温高圧水における1,4-butanediolの脱水反応の速度に対する酸添加の影響を調べ、酸触媒によらない新たな反応経路の存在を指摘した。この実験事実は、超臨界水をはじめとする高温高圧水の特異な反応性の一端を示すものであり、その反応機構を明からにすることは、理学的、工学的に極めて重要である。 我々は、この反応について以下のような経路を仮定した。それは、1,4-butanediolの脱水によりbiradical中間体が生成し(HO-(CH_2)_4-OH→・O-(CH_2)_3-CH_2・+H_2O)、中間体の環化によりTHFが生成する(・O-(CH_2)_3-CH_2・+H_2O→THF+H_2O)というものである。この過程では脱水が反応の律速段階であり、我々は水素結合鎖に沿ったプロトン移動により脱水が進行すると考えた。QM/MM法とエネルギー表示の理論を組み合わせた新規な手法により、超臨界水中の1,4-butanediolの脱水反応の活性化自由エネルギーを計算し、反応機構の妥当性を検証した。 水2分子がプロトン移動に関与する場合について、密度汎関数法を用いて反応物及び遷移状態の構造を最適化した。反応物では1,4-butanediolと水分子が水素結合により複合体を形成する。反応は、1,4-butanediolのOH基のプロトンが隣接するH_2Oの酸素原子へ移動すると同時に、2つ目の水分子の水素が1,4-butanediolの片方のOH基を攻撃することにより進行する。この機構の気相中の活性化自由エネルギーはΔG_<gas>=62.9kcal/molであり、高温中でも反応は進行しにくい。QM/MM計算により、反応に対する高温高圧水(T=500K, p=0.6g/cm^3)の溶媒効果を考慮すると、活性化自由エネルギーは46.6kcal/molにまで減少することが分かった。遷移状態の分子のスピン密度解析により、気相中ではビラジカルな電子構造が、極性溶媒の影響により溶液中では分子内双極子(zwitterion)を形成することが分かった。
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