研究概要 |
チタノシリケートは骨格内にチタンを含有するシリカ多孔体である。特に、チタン含量が少ない場合、骨格内のチタンはバルクTiO_2のような6配位構造を取らず、Siに囲まれた孤立4配位構造をとるため、バルクTiO_2とは異なる光触媒特性の発現が期待できる。本研究では、マイクロ孔(約0.55nm)をもち、かつ4配位チタンを含有するチタノシリケートの水中における光触媒機能を研究した。様々な水溶牲一環芳香族を基質とした光触媒反応を分子状酸素の存在下で行ったところ、チタノシリケートの細孔径よりも明らかに大きな分子径をもつ化合物や小さな分子径をもつ化合物は転化しないのに対し、細孔径とほぼ等しい分子径をもつ化合物のみが転化することを見出した。このような機能は、バルクTiO_2やチタンを含まないシリカ多孔体に6配位チタンを含有された触媒、またはゾルゲル法により調製した非孔質の4配位チタン含有シリカを用いた場合には全く見られず、4配位チタン種とナノ細孔が組み合わされることにより初めて発現する特異な機能であることを明らかにした。また、水存在下におけるチタノシリケートのESRスペクトルの測定により、機能発現のメカニズムを明らかにした。チタノシリケートのこのような機能は、様々な物質変換反応に応用できる。例えば、内分泌攪乱物質である2-クロロ-1,4-ジヒドロキシベンゼン(CDHB)は、バルクTiO_2の存在下で光分解を行うと、-Clから-OHへの置換により1,2,4-トリヒドロキシベンゼン(THB)を生成するが、逐次的に芳香環が分解されてしまう。一方、チタノシリケートを用いてCDHBの光分解を行うと、バルクTiO_2の場合と同じように、-Clから-OHへの置換が進行するが、この段階で生成したTHBの分子径は細孔よりも十分小さいためそれ以上の光分解は進行せず、無害かつ工業的に有用なTHBがほぼ100%の収率で得られる。すなわち、チタノシリケートは細孔径とほぼ等しい分子径をもつ化合物を少し小さな分子に変換する(分子を削る)機能をもつと言え、分子サイズの減少をともなう選択的官能基変換反応へ応用できることを見出した。
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