太陽発電衛星(SPS)など今後の大型宇宙構造物(数十m〜数kmスケール)の多くは1mm以下程度の厚さの薄膜の構造様式をとると考えられる。このような大型の構造物では、超高速の宇宙浮遊物(デブリ、マイクロメテオロイド)による衝撃破壊が日常的に発生するため、高速衝突破壊を最小限に止めるような薄膜の構造、配置が必要である。本研究では格子状の低剛性部及び高剛性部を持つ薄膜構造様式の衝撃伝搬阻止と熱伝導阻止の効果を調べた。レールガン及び二段式軽ガス銃を用いた高速衝突実験で、両様式ともに破壊伝搬を抑圧する効果が認められた。特に後者の場合は、破壊のエネルギーが伝搬せず衝突部周辺の破壊は激しくなるが、破壊が広範囲に拡がることを防止できることがわかった。このことから、薄膜の境界条件(拘束条件)が薄膜の破壊形態に大きな影響を持つことが想定されたため、薄膜の周辺の取り付け構造に対する破壊形態の依存性についても調べた。その結果、周辺が全て拘束されている方が1辺のみ拘束されている場合よりも膜が破断しやすいことが判明した。また、薄膜そのもの及び薄膜の後段の構造物の破壊に重要な役割を果たす薄膜ターゲットのからのイジェクタ(小破片、ガス、プラズマで構成される放出物)についても調べた。特に太陽電池やマイクロ波アンテナに対する電気的な影響の大きい衝撃プラズマについて、(1)進行方向側に伝搬する衝撃プラズマの速度分布は弾の進行方向側に大きくシフトする、(2)逆進行方向側には衝撃プラズマは膜面に沿って伝搬する、という結果が得られた。特に(2)は従来予想されていなかつた事象であり、太陽電池パネルの短絡破壊の観点から実用上重要な知見が得られた。
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