推進系統合型燃料電池では凝固点の低い燃料および酸化剤を用いて燃料電池を動作させる。凝固点の低い液体の燃料・酸化剤を燃料電池に直接供給する場合、燃料・酸化剤に対する電解質膜の耐性、燃料・酸化剤の電解質膜透過による直接反応、ならびに燃料と酸化剤の蒸気圧の差による燃料電池電解質膜の破損などが問題となる。実験を安全に遂行するためにはこれらの特性を把握しておく必要があるため、燃料・酸化剤の候補の一例としてヒドラジン、四酸化二窒素を用いた場合における電解質膜耐性確認ならびに透過量の計測、電解質膜の耐圧破壊試験を実施した。 ヒドラジンと四酸化二窒素をそれぞれ個別に燃料電池(電解質膜圧25μm)に約200時間充填した後においても電解質膜の破損などは確認されず、耐性を有していることが確認できた。燃料・酸化剤共に電解質膜の透過が確認されたため、実使用時においては厚膜の使用や発電量を調整するなどして透過量を低減させる必要があるものと考えられる。また、電解質膜の耐圧破壊試験の結果、200μmのガス拡散層を用いた場合において1MPa以上の耐圧を有するには200μm程度の電解質膜を用いる必要があることが分かった。今後、蒸気圧の高い低凝固点の燃料・酸化剤を用いた実験を進めるにあたって、透過や耐圧の観点から厚い電解質膜を用いる必要があると考えられる。 凝固点特性の評価から、HA水溶液の混和は30%を上限に考えればよいことが明らかとなった。着火特性については温度の依存性が定量化できた。当該組成の低温側での反応性は、2液の混和方式や触媒の形状によって変化するため、今後はスラスタ形状での燃焼特性と推進性能評価が推進システム開発において重要である。継続的な検討を進めることが必要である。 燃料電池との統合を考える場合、炭素原子を含まない推薬組成が望ましく、この要求を満足し、かつ化学活性の高い化合物を選定するとなるとその数はおのずと限られてくる。加えて探査機、ロケットへの搭載を考えると、常温での取り扱いにおける安全性も極めて重要なポイントとなる。HA水溶液は市場で比較的安全に取り扱われる物質であり、濃度管理さえ注意すれば大きな問題はない。これを混和したN2H4溶液の安全性はこれから詳細に評価する必要があるが、少なくとも水が混和することは危険側ではない。したがって、本検討で取り扱った組成は非凍結型液体推進剤の燃料として最有力候補といえる。
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