研究概要 |
構造用鋼材は一般に延性に富み、変形能に優れているが、低温、高歪速度、予歪み等を受ければ脆化する傾向があり、極端な場合は脆性破壊することがある。阪神淡路大震災でも、土木・建築鋼構造物の柱・梁部材に延性破壊または脆性破壊が生じたと報告されているが、このような予歪みや高歪み速度が影響したものと考えられる。このような破壊の研究は、現象が複雑なため解明すべき未知の領域が多く残されている。 本研究では、予歪みが鋼材の破壊強度にどのように関わっているのか、そのメカニズムを解明するために、試験片にアコーステックエミッション(AE)センサーを装着して破壊発生現象を捉えるとともに、破面をレーザ顕微鏡やSEMで観察し、さらにはFEM弾塑性解析を行うことにより力学的観点からも検討してきた。本研究で使用してきた供試材は一貫してSM490であり、これより製作した円周切欠丸棒試験片に所定の予歪みを与えて破壊挙動を調べてきた。与えた予歪みは10%、30%であるが、参考のため予歪みなしのものを加えて3段階とした。予歪み量の影響と塑性拘束の影響をみるため、平滑試験片の他、切欠半径を1mm、2mm、5mmに変えて静的引張実験を行った。その結果、予歪みなし試験片は切欠の有無に関わらず劈開破壊は起こらないが、30%予歪み試験片は切欠半径が1mmおよび2mmでは全面劈開を生じ、切欠半径が5mmではわずかに劈開破面が見られ、,10%予歪み試験片では切欠半径が1mmおよび2mmで、微小劈開破壊が生じることが分かった。また、試験片中央部でAEが発生したら、そこで試験を中断して試験片を疲労破壊させて破面を電子顕微鏡で観察し劈開の状態を調べた。さらに、試験片の荷重状態をFEMにより弾塑性解析し、どのような力学状態で延性破壊が発生するかを検討し、3軸応力度と破壊時の相当塑性歪の関係を求めて整理した。
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