これまで、岩石の残留応力の測定として、粉末中性子回折装置を用いて、回折データの測定を行ってきている。本研究では、圧縮下で中性子回折実験を行うことで、応力下の回折データを測定し、これと残留応力のデータとを比較することによって、岩石が地中で受けていた応力を推定する方法を開発することを、研究の目的としている。 本年度は、高エネルギー加速器研究機構パルス中性子実験施設(KENS)に設置されている高分解能粉末中性子回折装置(Sirius)の真空散乱槽内に設置することの可能な圧縮試験機を、本研究費により購入、設置調整、測定を行った。測定は、試料として円柱状に加工した花崗岩を用い、荷重を0-3tまで変化させて、圧縮応力下で中性子回折データの測定を行った。回折データ中の石英の反射に注目し、各反射プロファイルをシングルピーク法でフィッティングし、回折ピーク位置の荷重による変化を算出した。粉末回折における反射位置を基準にして、歪の変化を求めた。本測定では、装置のセッティングの関係から、試料を圧縮した場合、測定される歪はポアソン比から膨張方向に測定されることになる。最も大きく変化した、(110)反射では、歪の変化は荷重1tあたり2.8*10^<-4>%であり、応力に変換すると1.5Mpaという値が求められている。また荷重を徐加しても、歪みは残留することも示された。今回、種々の成分の混合している花崗岩中の、石英の応力による変化の測定をすることが可能であることが示された。しかし、他の成分の寄与があることを考えると、次年度以降は単成分の岩石を用いて、回折実験を行う予定である。 本年度の成果は、12月に行われた、中性子科学会年会において報告を行った。また、9月に行われた、中性子と放射光を用いた残留応力測定法に関する国際会議において、実験の概略を報告するとともに、英国の中性子回折装置担当者との意見交換を行った。
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