研究概要 |
本研究では中部領家花樹岩類を対象に,フィールド調査による巨視き裂の観察および走向・傾斜の測定,弾性波伝播速度測定,微視き裂の観察および走向・傾斜の測定を行うことにより,以下のことが明らかになった. 伊奈川花南岩体北東部においては3方向に卓越するき裂によってブロック状構造が形成されており,これらのき裂系は岩体の冷却にともなう引張り割れであると考えられる.一方,この地域では中央構造線に平行なNE-SW系,および阿寺断層に平行なNW-SE系の断層が多く存在する.伊奈川花崗岩体南西部および古期領家花崗岩類では,NE-SW系,NW-SE系のせん断き裂が卓越していることから,これらのき裂は中央構造線および阿寺断層断層の運動に関係する広域的な地殻応力の影響を強く受けて形成されたと考えられる. 伊奈川花崗岩体について,定方位サンプルを用いて弾性波伝播速度測定および微視き裂の方位測定を行った.その結果,弾性波伝播速度の異方性と巨視き裂の方向とには相関が認められ,巨視き裂の優劣順を弾性波伝播速度の大小関係から知ることが可能である.法線方向の弾性波伝播速度が最小となる方向のrift planeにはhealed crackが卓越し,弾性波伝播速度の異方性はhealed crackの配向性の影響をうけている.一方,open crackはrift planeに卓越せず,これはopen crackの開口幅が大きいために,減衰により弾性波が伝播しないためであると考えられる. 定方位試料を用いて弾性波の伝播速度の異方性を計測することにより,巨視き裂の優劣順を推定することが可能であったが,これと合わせて,広域的な断層の方向を加味した判断をすることにより,より精度の高いき裂構造の推定が可能であるといえる.
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