研究概要 |
大型超伝導コイルに用いられるケーブル・イン・コンジット(CIC)超伝導導体では,変動磁場に対して,撚りピッチの2乗に比例する時定数を持つ通常の交流損失のほかに,10〜100秒程度の長時定数を持つ不規則なループによる交流損失の発生が確認された。ケーブル内の素線の配置は,各サブケーブルの撚りピッチの最小公倍数の長さで,同じパターンが繰り返されるため,ある点で接触した素線は,最小公倍数の長さで再度接触して長いループを構成する。これらのループの時定数はインダクタンスとループを構成する素線間の接触抵抗の比で表される。 実際に使用したCIC導体の素線間の接触抵抗を測定した結果,接触状態が弾性変形範囲にあるときの接触抵抗は50〜100μΩ程度で,塑性変形を起こす圧縮力を加えると5〜7μΩ程度まで減少し,1桁少なくなった。測定した塑性変形の接触長さは0.2〜0.3mmであり,弾性理論による接触長さが約20μmであることを考慮すると,接触長さの増大に伴い接触抵抗が減少することが分かった。一方,CIC内の長ループのインダクタンスは10μH程度であるので,ループ時定数は,弾性変形で約0.1秒程度,塑性変形で約1秒である。これらは観測された数10秒の時定数より短い。 この原因と考えられる素線間の接触状態を観測するために,各素線のケーブル内の配置を調査した。その結果,本来3本の素線が撚られて一体化していると予想していた1次撚り線が,実際には,本来の位置から大きく変位している素線を持つものがあることを観測した。定量的に検討するために,1次撚り線で囲まれる三角形の領域内に他の素線が大きく変位して入る数を調べた。5種類のCIC導体の調査結果から,大変位をする素線の割合が平均的に約5%程度あることが分かった。この大変位した素線は,一般的に1m程度離れると,元の一体化された1次撚りとなる。したがって,このような大変位した素線がループを構成する場合には,点接触でなく長距離にわたる線接触の状態を形成し,長時定数ループが生成されると推定される。
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