研究概要 |
電離フロントの往復運動とそれにともなう中性ガス圧の振動を再現する簡素な物理モデルを考案した。モデルは,バッフル板とダイバータ板の間の領域(ダイバータ領域:D領域)とバッフル板の上流の領域(エッジプラズマ領域:E領域)の2点の中性ガス圧が,ヘリウムプラズマの先端部である電離フロントの沿磁力線位置zfに依存するという,いわば1/2次元モデルである。そのzf依存性については次に述べる実験事実を元にしている。D領域にヘリウムガスを注入するとD,E領域の中性ガス圧PD,PEが増加しPD〜1Pa程度でデタッチ・プラズマがD領域に現れ,zfが上流側に徐々に移動する。zfがバッフル板を超えてE領域に移ると,PDが急減しPEが急増する。これは,電離フロントがD領域にあるとき,バッフルの穴におけるイオン流と中性ガス流の間の摩擦(プラズマプラギング)により中性ガスがD領域に蓄積するのであるが,電離フロントがE領域に移ると,その蓄積された中性ガスが堰を切ったようにE領域に流れ込むことを示している。D,E領域の中性ガス圧の時間変化は,コンダクタンスをCとして,VD dPE/dt=-C(PD-PE)+Qp+QD,VE,dP E/dt=C(PD-PE)-SPE+Qf,と表される。ここで,VD,VEはD,E領域の容積,QpはD領域に入り込むイオンによる実質的な中性ガスの供給を意味する。コンダクタンスの値は,真空でのコンダクタンスCO,バッフルの穴における摩擦の強さζ,そこでのイオン密度niBを用いてC=CO/(1+ζniBCO)と表される。この形式は1次元の摩擦と圧力勾配のバランスの式から導かれる。プラズマの密度分布は,近似としてni=-ni0/2[tanh{(x-xf)/λ}]とする。λは電離フロントにおけるイオン密度勾配の特性長で,三体再結合と径方向拡散で決められるプラズマ柱の大局的なイオン数保存式をd(niO Sp zf)/dt=niO ui Sp - νR niO Sp zfと書く。νRは上流側の径方向拡散によるイオン損失を表す。プラズマ断面積Spの時間依存はzfの時間依存に比べて著しく小さいので,この保存式はzfの時間変化を規定する。この式と上述した中性ガス圧の時間変化の式とを連立させてPE,PD,zfについて解くと,実際に近いλの値の元で実験結果によく似た振動を表す。したがって観測された振動は電離フロントの位置によるプラズマプラギングの生滅に起因する。これまでは,D領域にヘリウムガスを注入した例であったが,ネオンガスや水素ガスを注入した場合についても,電離フロントの振動が観測された。ただし,水素を注入した場合ヘリウムやネオンを注入した場合と比べ,振動が現れ始める上流プラズマ密度は著しく大きい値となることが分かった。ヘリウムやネオンを注入すると,PDは直線的に増加するのに対し,水素の場合PDの増加は見られない。水素を入れだ直後からプラズマプラギングが効かずE領域に水素が漏れているようである。プラズマプラギングの弱まりは,バッフルにおけるヘリウムイオンの減少によって起こりうる。この減少は,水素分子による分子性再結合の影響による可能性がある。
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