研究概要 |
キノコ体は、ショウジョウバエ脳容積の6割を超える発達した神経構造であり、学習記憶をはじめとする多様な高次機能の中枢である。本年度は、ショウジョウバエ・キノコ体で発現する遺伝子群の網羅的同定をおこない、さらに同定した遺伝子の脳発現部位の解析を行った。一令初期のショウジョウバエ幼虫にDNA複製阻害剤を摂取させ、キノコ体神経細胞を特異的に殺傷した。このハエの脳から全RNAを抽出し、遺伝子発現プロファイルを野生型の脳と比較し、キノコ体欠損により発現が低下する1,465個の遺伝子を同定した。また、これらの中から、マイクロアレーデーターの再現性が高い103個の遺伝子を選別し、代表的な遺伝子について脳におけるmRNA発現パターンをin situハイブリダイゼーションにより確認した。 また、学習記憶中枢の形成と可塑性をより総合的に理解するために、キノコ体形成遺伝子の探索と平行して、ショウジョウバエ幼虫を用いた薪しい学習記憶パラダイムを開発した。これまで、ショウジョウバエの学習記憶研究はもっぱら成虫を用いて行われてきたが、変態により再編成される複雑な神経回路が個々の神経ネットワークを解析するうえで大きな障害であった。我々は、特定の匂い物質をショ糖と同時提示することにより、幼虫においても嗅覚連合学習が効率良く成立するパラダイムを確立した。これにより、幼虫の報酬記憶では、cAMP応答配列結合因子(CREB)を介した新しい遺伝子発現が誘導されることが明らかとなった。
|