マウス受精卵では、卵中のRNAが蓄積母性RNAから接合子型RNAに変換する受精後20時間頃までは発生は母性RNAの支配下にある。一般的に蓄積母性RNAの情報発現は胚発生プログラムの開始に重要と考えられているが、具体的な機構は殆ど不明である。我々は、独自に単離したBri3/SSEC-D遺伝子の母性RNAが受精後18時間(1細胞期後期)をピークとして一過的にポリA鎖をもともとの80-100ntdsから400ntds程度にまで伸長させ、その後分解されることを見いだし、同現象がマウス初期胚発生プログラム発動に重要な役割を持つ可能性を検討してきた。本研究では、ポリA鎖をこの時期に伸長するマウス母性RNA群を濃縮する独自の新規なcDNA Libraryを考察し(Sakurai et al.2005)、その母性RNA群を解明することを目的としており、今年度はそのうちの約1000クローンの解析を開始した。その結果、 1.まず、それらの分子種は多様であること。 2.25種のクローンについてRNAブロット解析を実施したところ、対応する母性RNAはこの時期の発生過程で確かにポリA鎖伸縮を示すとともに、その伸縮様式にも多様性(現時点、5様式に分類)が存在することを発見した。 3.これらの遺伝子中には、カエルやマウスの卵母細胞期におけるポリA鎖伸長機構に必須とされるcis配列は見出されないものも多く、受精後のポリA鎖伸縮機構はそれとは異なることが示唆された。 4.単離クローンのin silico解析から、これらの母性RNA群は、特定の機能群に集中せず、またその遺伝子も特定染色体領域にはなかった。 他の生物種との詳細な比較はこれからであり、また核移植を用いる系は準備段階であるが、計画のほぼ90%を達成したと考える。以上は、マウス受精卵期のポリA鎖伸長現象の普遍性と、機構の新規性と多様性を世界で初めて見出したものである(manuscript in preparation)。
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