研究概要 |
人工的にコントロールされた環境で、植物の花序形態がポリネーターの行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした「屋内実験」と、自然状態で植物の開花状況や花蜜分布とポリネーターの行動を観察し、実際の花粉散布量を評価することを目的とした「野外実験」を中心に研究を行った。 屋内実験では,エゾオオマルマルハナバチの人工コロニーと閉鎖空間(ビニールハウス)を連結した実験系を作り,蜜量をコントロールした人工花序への訪花行動を定量化した.花序形態としては,総花数を一定にして総状花序・円錐花序・散形花序の3形態を用意し、様々な花蜜分布(一定、ランダム、方向性を持った変化)に対するマルハナバチの花間の移動パタンと滞在時間を詳細に記録した.その結果、花蜜の分配様式が訪花昆虫の行動に及ぼす影響は、花序形態により変化することが示された。 野外実験では、花色変化するスイカズラ科ウコンウツギへのマルハナバチの訪花様式とウコンウツギの繁殖成功の関係について解析を行い、花色変化は植物の花粉散布成功と深く関係していることが明らかになった。この成果は、論文として発表した。また、盗蜜型のマルハナバチと正当訪花型のマルハナバチが、ケマンソウ科エゾエンゴサクの繁殖成功に及ぼす影響について野外調査を行い、成果の一部を論文として公表した。エゾエンゴサクは花序内の性配分様式を個体群間で変異させており、これは個体群に特有のマルハナバチタイプに適応した変異である可能性が示された。さらに、常緑性の多年草イチヤクソウ科8種の混生集団において、各種の開花期間ならびに有効な花粉媒介者と考えられるマルハナバチの訪花行動の観察を行った。8種の開花期のオーバーラップは少なく、連続な開花が認められたことから、種間において訪花昆虫をめぐり時間的ニッチ分化が生じていることが示唆された。
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