研究課題
1.環境の変化により生育に不適な条件にさらされたサクラソウジェネットの存続可能時間を推定するために、実験的に制御した異なる光条件の下で育成したラメットについて、光合成速度や呼吸速度を測定した。その結果、約630μmol photons m^<-2>s^<-1>とした明条件では、枯死するラメットはほとんど無かったのに対して、できる限り光が入らない条件とした暗条件では、実験終了までに80ラメット中24ラメットが枯死した。このことから前年の生産物を使えるクローン植物であっても極端な暗条件での生存は難しいことが示唆された。また、呼吸速度の温度依存性の解析からは、サクラソウは気温が上昇する夏から秋にかけて、呼吸による物質の消費を極力抑えている可能性が示唆された。2.攪乱様式の異なる3箇所のサクラソウ自生地で、マイクロサテライトマーカーにより遺伝構造の解析を行った。その結果、傾斜地の個体群では、離れた場所に同一ジェネットが分布しており、土砂の動きに伴ってラメットの移動が起きることが示唆された。一方、水流のある平坦地では、ラメットの大規模な動きはほとんど見られず、水流ではラメットは動きにくい可能性が示された。3.様々な温度条件下で展葉・開花フェノロジーを測定した結果、ジェネットごとに有意な遺伝的変異が存在すること、5℃と15℃の交代温度条件下で育成した場合に、ジェネット間の変異がもっとも大きく現れることが明らかとなった。4.ユキワリソウ用に開発したマイクロサテライトマーカーを用いて、個体群内の地上部ラメットと土壌シードバンクの遺伝構造の比較をおこなった。その結果、土壌表層付近のシードバンクは、地上部個体群と遺伝的組成が近いが、深層のシードバンクはそのような構造がみられなくなる傾向が認められた。また、水流のある個体群では、遺伝構造のあり方が水流の方向に影響を受けていることが示唆された。
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