植物はポリフェノールを主体とするタンニンやリグニンなどの二次代謝産物を生産し、これは植食者への防衛効果を持っているとされる。これらが多量に生産されると、リターに多く含まれるポリフェノールの官能基がタンパク質と結合し、難分解性の物質を形成する。このため有機物分解が遅くなり無機化が滞り、ミネラル回帰がなされなくなる。こうして、防衛への投資は貧栄養を増幅させ、理論的には生産と栄養塩無機化(分解)に正のフィードバックがかかり、長期的には生態系は低バイオマス・低生産性へと向かう。生食への防御機構としてポリフェノール物質に投資することが適応的であっても、栄養塩の回帰まで含め生態系の循環を考えるときには決して適応的ではない。この研究では、ポリフェノール物質の生葉-リター-土壌ループでの挙動を明らかにすることを目的としている。今年度は、1つの常緑樹林林内で、4つの異なる樹種からそれぞれ5固体を選び、各固体の根元からの距離に応じて表層土壌を定量的に採集し、無機態窒素、窒素無機化速度、全窒素、有機体炭素を標準的な手法を用いて分析した。また、この森林内の10カ所にライシメーターを設置し、陰圧をかけて土壌水を採集した。この土壌水中の溶存ポリフェノール濃度の定量を比色法で行った。また、ポリフェノールに結合していると思われるタンパク質の量を明らかにするため、土壌水を樹脂カラムDAX-8に通し、疎水性と親水性の画分に分画した。疎水性の画分に含まれるタンパクを塩酸で加水分解し、遊離したアミノ酸を高速液クロで定量することにより、溶存のタンパク質の量を推定した。
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