この研究の目的は、植物の二次代謝産物である生葉のポリフェノール物質がリターとして土壌系に加入した際に、どのような生物地球化学的影響を分解系にもたらすのか、さらにそれが地上植生にどのようにフィードバックするのか、を明らかにすることである。今年度は、分解を担う土壌微生物群集への波及効果を明らかにした。1つの常緑林に共存する、異なる生葉ポリフェノール濃度を持つ5樹種から各5本の反復個体を選び、それらの樹冠下から土壌粗腐植を採集した。これらの試料を実験室に持ち帰りBIOLOGプレート上で培養し、BIOLOGに含まれる95種類の炭素基質の代謝能力を測定した。測定結果を主成分分析で多変量解析した結果、樹種毎に利用できる炭素源の組み合わせが異なり、これにより土壌微生物群集が異なる可能性が示唆された。さらに、土壌粗腐植試料の湿度、pH、全可溶性フェノール量、BIOLOGに含まれる炭素基質以外の基質への酵素活性を測定した。その結果、酸性(及びアルカリ性)フォスファターゼとβ-Dグルコシダーゼの活性には統計的に有意な樹種間差が見出された。ポリフェノールを分解する酵素であるフェノール・オキシダーゼの活性には有意な樹種間差が見出されなかった。しかし、全種を込みにしてフェノール・オキシダーゼ活性と全可溶性フェノール量との関係を検定したところ、統計的に有意な正の相関が認められた。これらの結果から、各樹種の樹冠下には固有の微生物群集が形成され、リターのポリフェノール濃度に依存したポリフェノール分解酵素活性を持っている可能性が示唆された。
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