研究概要 |
1.小笠原では野生化したヤギの食害により、多くの固有植物が激減あるいは絶滅した。植生が破壊された後、本来はウラジロエノキ林から乾性低木林へと遷移するが,窒素固定能をもつ外来種のギンネムが侵入した場合は,土壌の冨栄養化が促進され,在来種より競争力のある外来種が占領する森林に遷移する可能性がある。また、植生回復のために他島の個体群から植物を導入すると,その島にもともと生育していた植物との間で浸透性交雑が生じ、植物集団の遺伝子構造や形態・生態的な特性が失われる危険性が可能性が高い。本研究の目的は,野生化ヤギが駆除された聟島列島の媒島における生態系の回復過程について、外来種ギンネムと在来種ウラジロエノキを先駆種とする植生遷移の機構を土壌環境の変化に着目して明らかにし、さらに植生遷移初期の群落に出現する植物の遺伝的特性を遺伝子系図学的手法によって明らかにすることである。 2.父島内において人為的撹乱によって裸地化した跡地にギンネムとウラジロエノキが優占する調査区において,ギンネム林およびウラジロエノキ林の次の遷移段階で優占すると予想されるヒメツバキの実生の移植実験を実施した。その結果、ギンネム林内ではヒメツバキの実生の生存と成長が阻害されることが示された。この結果は、昨年度ヒメツバキ種子実験によって明らかになったギンネムによるアレロパシー効果の可能性支持する。 3.小笠原固有のシロテツ属植物について、聟島から北硫黄島を含む分布域全域の16集団のサンプルについてアロザイム解析を行い、遺伝的変異の分布パターンを把握した。加えて開花期の調査も行った結果、同一分類群内で開花期の異なる2群があることが確認され、両者の間で遺伝的に分化していることが明らかとなった。また、集団内に高い遺伝的多様性が認められたのに対して、集団間では相対的に低かった。集団サイズや個体の空間構造は遺伝的多様性に影響していなかった。
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