研究概要 |
クロロフィルは光エネルギーを捕捉し、化学エネルギーに変換し、二酸化炭素を固定することによって、植物の物質とエネルギー代謝の中心的な役割を果たしている。しかし、クロロフィル代謝は単に光合成に必要なクロロフィルの供給や分解に限定されているのではなく、緑葉の細胞死(leaf lethal、枯死)と常緑化(Stay green)の現象に深く関わっている。これらの現象は、クロロフィル合成や分解の中間代謝物が、活性酸素を発生させ細胞死を引き起こすこと、またクロロフィルの分解の抑制が、植物の老化自体を遅延させることに原因している。植物は、この二つの機能を利用して、緑葉の枯死とStay greenを制御している。本研究の目的は、(1)クロロフィルの合成と分解、およびそれらを調節する遺伝子を網羅的に単離し、(2)それらの遺伝子の緑葉の枯死とStay greenに対する役割を明らかにし、(3)将来の農学的な応用の基盤を作ることである。 クロロフィルaの合成を触媒する酵素の遺伝子の多くは同定されている。しかし、ジビニルプロトクロロフィリドaをモノビニルプロトクロロフィリドaへ触媒するジビニルプロトクロロフィリド8-レダクターゼ(DVPレダクターゼ)だけは、酵素的な性質は研究されているものの、遺伝子はまだ同定されていない。今年度は、DVPレダクターゼ遺伝子の同定を目的として、EMS処理したシロイヌナズナから、クロロフィルの代わりにジビニルクロロフィルを蓄積する変異株をその原因遺伝子の同定に取り組んだ。HPLCによる色素の分析によって、目的とする変異株の単離に成功した。引き続き原因遺伝子を特定し,さらにその発現タンパク質を用いた酵素学的実験を行い,単離した遺伝子がDVR活性を持っていることを明らかにした。この研究によって,高等植物の全色素合成系遺伝子が決定された。
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