研究概要 |
原核生物と真核生物のゲノム情報を利用した比較ゲノム解析に基づいて,シアノバクテリアからプラスチドへの進化を解明することを目標として,ゲノム装置成分の同定と機能解析を行い,以下の成果を得た。 1.相同グループ法に基づく計算によるゲノム比較-真核・原核生物のゲノムにコードされる推定タンパク質配列を,BLASTによる相同性検索のE値と相同領域をもとにクラスター化するため,ゲノム比較ソフトgclustを作成した。得られた相同グループをもとに,シアノバクテリアから植物に持ち込まれた遺伝子のリストを作った。これに含まれるシアノバクテリアの44個の遺伝子の破壊株の作製,シロイヌナズナの55個の遺伝子の発現解析と産物の葉緑体ターゲティングを調べた。対応するシロイヌナズナのタグラインを取得し,種を取ったが,表現型の解析はこれからである。 2.新規ゲノム装置構成成分の同定と機能解析-オルガネラDNAポリメラーゼに関して,植物と藻類からPol Iタイプのタンパク質をコードする遺伝子を単離した。大腸菌を用いて,タンパク質を発現させ,酵素としての機能を確認するとともに,抗体を作製し,免疫ブロット法とGFP融合タンパク質法によってミトコンドリアと葉緑体の両方または一方への局在を確認した。紅藻の同調培養系を用いて,分裂期におけるポリメラーゼの蓄積を確認した。 3.主要DNA結合タンパク質の機能的置換の実証-シアノバクテリア・紅藻・緑藻のHUタンパク質について,核様体への結合と転写に対する影響,DNA結合性などを調べ,また,相互の機能互換性を調べた。緑色植物に存在する亜硫酸還元酵素(SiR)もプラスチドDNA結合タンパク質であるが,HUとは異なり,DNA凝集能が強く,また,転写活性を強く抑制した。緑色植物の進化の過程における,DNA結合タンパク質の入れ換えの意義について考察した。
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