光合成明反応は、直線的電子伝達と光化学系Iサイクリック電子伝達からなる。前者はNADPHとATPを合成するが、後者はATPのみを合成するのが特徴である。高等植物では、光化学系Iサイクリツク電子伝達はFQR経路とNDH経路の二本の経路からなる。FQR経路は、発見以来、約半世紀その実体がつかめなかったものであるが、我々はそれに関わるシロイヌナズナ変異株pgr5の単離に成功し、その経路が植物の強光への反応に必須であることを明らかにした。一方、NDH依存経路は、ラン藻で明らかになったものであるが、タバコを用いた葉緑体形質転換で高等植物での機能も示されている。我々は、シロイヌナズナでNDH経路を欠く変異株を単離し、葉緑体RNA編集に関わる遺伝子をはじめて明らかにした。さらに、両方の光化学系Iサイクリック電子伝達を欠く二重変異体を作成した。二重変異体は、弱光から光合成が著しく阻害を受け、光化学系Iサイクリック電子伝達が、強光ストレス回避だけではなく、光合成そのものにも重要な働きをすることを明らかにした。 光化学系Iサイクリック電子伝達の生理機能が示され、残る課題は電子伝達に関わるタンパク質の全貌解明である。特にFQR経路は、我々の明らかにしたPGR5以外なにもわかっていない。最近シトクロームb_6f複合体の結晶構造が明らかになり、新規のヘムが見つかった。このヘムは、Qサイクルには必要ないように思われ、FQR経路への関与が議論されている。そこでシトクロームb_6f複合体のRieskeサブユニットに異常をもつシロイヌナズナpgr1を用いて、Rieskeサブユニットの異常がFQR活性に影響を与えるかを検討している。現時点で、in vitro、in vivo解析とも、pgr1でのFQR活性の異常を示唆する結果は得られておらず、FQR経路がシトクロームb_6f複合体の新規ヘムを通るという仮説に疑問を抱くことになった。
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