研究概要 |
コオロギでは1回の嗅覚学習訓練(匂いと報酬の対呈示)により学習が成立するが、その記憶は数時間しか保持されない。一方、4回の学習訓練を行うと、学習後少なくとも4日間は保持される長期記憶が成立する。4回訓練による長期記憶の形成はタンパク合成阻害剤(シクロヘキシミド)の投与により阻害される。NO合成阻害剤(L-NAME),NO除去剤(PTIO),cGMP合成阻害剤(ODQ)を頭部に投与したコオロギに4回の学習訓練を行なったところ、学習後2、3時間までの短期記憶は正常であったが、長期記憶の形成は阻害されていた。L-NAMEによる長期記憶形成阻害は、NO発生剤(SNAP, PTIO)を同時に投与すると起こらず、また、ODQによる長期記憶形成阻害は、膜透過型cGMPを同時投与すると起こらなかった。一方、NO発生剤や透過型cGMPを投与したコオロギでは、1回の学習訓練でも長期記憶が成立した。このような長期記憶の誘導効果は、PKA(cAMP依存性タンパクキナーゼ)阻害剤であるKT5720やタンパク合成阻害剤の同時投与により阻害された。この結果から、NOによりcGMPを合成する系(NO-cGMPシグナル伝達系)が、PKAおよびタンパク合成系を介して、長期記憶形成を誘導することが示唆された。 Caged NOを用いた研究のための予備実験として、コオロギを台に拘束し、脳を露出させてから4回の嗅覚学習訓練を行い、1日後に匂い嗜好性を調べたところ、このような訓練条件でも長期記憶が成立することが分かった。また、NO誘導性cGMPの免疫組織化学により、コオロギの触角葉およびキノコ体におけるNO受容ニューロンの分布の概要が明らかになった。
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