早成性鳥類は、孵化直後から精確な視覚弁別に基づく選択行動を示す。雛のこの特性を利用して、意思決定過程、特に利得収支の計算過程について一連の実験的検討を加えた。個体レベルの行動学的解析・局所脳破壊実験などに加え、覚醒自由行動下・課題遂行中における大脳単一ニューロン活動の解析を総合的に行うことにより、以下の知見を得た。 1 基底核(側坐核相同領域):予期される報酬の時間的接近の脳内表現 遅延報酬によって強化された色弁別オペラント課題を、孵化後1-2週齢の雛は数時間のトレーニングによって速やかに学習する。線条体内側部の破壊によって、時間的・空間的に近い報酬を選び取ろうとする衝動的選択へのシフトが見出された。報酬の量に基づく選択は正常だった。ニューロン活動の解析の結果、予期報酬の接近と量とを特異的に符号化する2群のニューロンが同定された。さらに比較解剖学的検討の結果、この領域は哺乳類の側坐核(コア)と完全に相同とみなしうることが判明した。 2 弓外套連合野(大脳皮質前頭前野相同領域):予期されるコストの脳内表現 単一ニューロン解析によって、弁別記憶の細胞表現と共に、餌の音源定位に関する作業記憶と考えられる活動を見出した。この領域の選択的な破壊によって、処理コストを嫌うcost-averseな行為選択へのシフトが見出された。 3 収益逓減と喪失機会:生態的採餌状況の実験的再構成系の開発 最適採餌理論(最適パッチ利用モデル)を実験室内で再構成する行動課題を新たに開発した。特に、喪失機会に対する選択の感受性を定量的に計ることが可能となった。
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