1.被子植物の原始的な胚珠の形態を明らかにするために、モクレン科タイサンボクの胚珠を観察した。外珠皮は幌状の構造として発生し、後に珠柄突起が外珠皮の間隙を埋めて見かけ上コップ状となることがわかった。また、原始的被子植物アウストロバイレヤ目3科の胚珠を観察して、アウストロバイレヤとトリメニアの外珠皮は幌状であるのに対して、シキミではコップ状であることをたしかめた。これら以外の原始的な被子植物の胚珠のデータおよび系統関係を考慮して、胚珠の進化を推定した。その結果、被子植物の胚珠は外珠皮が幌状の倒生胚珠が原始的であると推定した。このような構造は葉のように背腹性のある側生器官によく似ていることが示唆された。 2.原始的な被子植物の胚珠と心皮の相同性をさらに遺伝子レベルから確かめるために、側生器官の背腹性の決定にかかわるYABBY遺伝子の相同遺伝子が原始的な被子植物の胚珠でどのような発現様式を示すかを調べた。スイレン属2種から単離したINO相同遺伝子NaINOは外珠皮の最外層で発現した。これから、外珠皮が葉と相同の側生器官である可能性が示唆された。また、アンボレラ属から単離したYABBY2相同遺伝子AmbF1は葉の向軸側と心皮の内側で発現し、真正双子葉類シロイヌナズナとは非常に異なることが明らかになった。この結果からは、心皮が葉の二つ折れによるか、あるいは楯状葉の袋状化によって生じたとするこれまでの説は支持されなかった。 3.これらの結果から、被子植物に特有の外珠皮は葉のような側生器官から派生したあと多様化する一方、側生器官の特性に関与する遺伝子が進化し、発現様式も変化した可能性が示唆された。
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