研究概要 |
無配生殖とは配偶子の受精を経ずに新たな子孫個体を作り出す生殖様式であり,植物では栄養生殖や無融合種子生殖などの生殖様式が一般的に見られる.無配生殖種においては,原理上,その子孫は親と遺伝的に同一のクローンになるため,生殖による種分化や変化が起こらず進化の袋小路といわれてきた.しかし,現実には,植物の無融合種子生殖種内ではしばしば大きな形態変異や遺伝的変異が見られる.本研究では複数のキク科植物群を用いて,無融合種子生殖種が遺伝的多様性を獲得する仕組みを解明することが目的である.そのため,これまでの研究成果と予備実験の結果に基づき,タンポポ属(日本産2倍体タンポポとセイヨウタンポポの雑種形成)とニガナ属(ニガナ複合体)を研究対象にする.本研究では,野外集団における生殖様式と染色体数,遺伝的変異を解析し,実際に自然界でおこっている現象の実体解明が目的である. 本年度は野外集団に関しては、ニガナ属の3倍体無性生殖種ニガナと2倍体有性生殖種ドロニガナが隣接している場所にて、集団解析を行った。マイクロサテライトを用いた詳細な集団解析の結果、両種の間には雑種が出来るが、実際は混じり合うことはなく、生育場所に関して強い選択圧がかかっていることが示唆された。また、交配実験の結果得られた種子の解析を、フローサイトメーターによるDNA含量の測定、染色体核型解析をタンポポ属を中心に行った。その結果、単なる一代雑種の形成だけでなく、雑種がさらに他の2倍体種や雑種個体と交雑している証拠が得られた。
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