本研究では、まず、西マレシア地域及びその関連地域で広く植物材料であるシマオオタニワタリ類を採集する必要がある。今年度は東南アジアとの深い植物地理学的関連が示唆されているマダガスカル島の材料を集めた。平成15年の12月に研究支援者の瀬尾明弘をマダガスカルに派遣して、北部のアンタラハ周辺、東部のアンダシベ付近及びアンチラベ付近でシマオオタニワタリ類を採集した。入手できた植物材料からDNAを抽出して、rbcL遺伝子の約1300bpの塩基配列を決定して、その塩基配列から植物材料をタイプ分けし、それぞれのrbcLタイプごとに形態の違いはないか、生育環境が分化していないかを検討した。また、同じrbcLタイプが地理的にどの範囲に分布しているかも検討した。その結果、マダガスカルには2つのrbcLタイプが存在し、それらは樹に着生する位置が異なり、生態的分化が見られた。これは、東南アジアのインドネシア、ジャワ島のハリムン国立公園のシマオオタニワタリ類で見られたのときわめて似通った棲み分けの仕方である。しかしながら、マダガスカルとジャワ島では、得られたシマオオタニワタリのrbcL遺伝子の塩基配列は大きく異なっていた。したがって、このようなrbcLタイプ間の生態的分化は独立に何回も起きていることが明らかとなった。一方、マダガスカルと同一、あるいは非常に配列の似通ったものが東南アジアにも存在することもわかった。マダガスカル産の2つのrbcLタイプは、スマトラ島あるいはベトナム産のものと、それぞれ似通った配列を持っていた。現在、東南アジア産の材料まで含めて、識別されたrbcLタイプごとに定量的な人工交配実験も行っているところである。東南アジアとマダガスカルほど離れた地域間でも似通ったrbcLの塩基配列をもつ個体同士が交配できるのかどうかは興味深いところである。
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