2003年から2005年にかけて、サバ大学、サバ公園局のメンバーの協力を得てマレーシア・サバ州のクロッカー山脈国立公園、タワウヒルズ公園、タビン野生生物保護区、キナバル国立公園において両生類インベントリーの再評価の調査を行った。その結果、数種の未記載種が発見され、調査された全地域について多くの分布が初めて記録された。音声学的な情報によって新種の発見率が上がり、録音されたカエルの鳴き声を用いることが地域の分布情報を集める上で極めて有効であった。実際に、Leptolalax属の新種や、Megophrys属のサバ州初記録の種は、鳴き声をもとに発見された。また、Meristogenys属の未記載の隠蔽種の発見や、Staurois属の1隠蔽種の分類学的検討には、生化学的な手法が大きく貢献した。生化学的な手法は、混乱の極致にあるMeristogenys属の幼生と成体の対応付けにも有効であった。従来は、標本が蓄積され、形態変異の比較が可能となった結果、多くの隠蔽種が発見されてきたが、現在は、音声学的および生化学的手法がカエル目のインベントリーの作成に貢献するようになった。アシナシイモリ目についても、今回の調査でCaudacaecilia属の抱卵が初めて観察され、属の有効性について議論を行う等の成果を得た。今回調査された地域が、それぞれの国立公園や保護区内のきわめて限られた範囲でしかないことを考えると、サバ州では更に高い両生類多様性が残されていると期待される。種数累積曲線からみて、サバ州産の種数は今後も増加することが予想され、近い将来に完全なインヴェントリーを完成することは無理であろう。しかし、急速に生息地が失われつつあるので、本調査で用いられたような手法を用いて、より精度の高いサバ州産両生類相インヴェントリーの早急な作成が望まれる。
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