研究概要 |
本研究により、これまでに細胞性粘菌を発現系として、巨大な細胞内輸送タンパク質である細胞質ダイニンの組換え体作成に世界に先駆けて成功した(Nishiura et al., J.Biol.Chem.279, 22799 (2004))。ミオシン、キネシンなどのモータータンパク質に比べてその巨大さのために研究の展開が遅れていたダイニンについても、今後、この発現系の確立がブレークスルーとなり大きく展開することが期待される。ダイニンモータードメインは6個のAAA+モジュールからなるが、そのうち4箇所にはATP結合・加水分解部位が存在しており、これら複数の部位へのATP結合と加水分解がうまく協調して、微小管すべり運動が生じると考えられている。こうした部位間の共役の実態を、ATP結合あるいはATP加水分解を特異的に止める変異を各部位に導入することで明らかにした(Kon et al., Biochemistry 43, 11266 (2004))。この結果、AAA1とAAA3モジュールのATP加水分解サイクルの緊密な共役がダイニンの力発生に必須であることがわかった。また、AAA1モジュールでのATP加水分解で放出される自由エネルギーによってすべり運動が駆動されることもわかった。さらに、GFPとその変異体BFPをもちいた蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法をもちいた実験で、ATP加水分解サイクルが1回まわるごとにダイニンモータードメインの尾部領域が一回スイングすることがわかった。また、ATP加水分解サイクルの各ステップ(化学的過程)と尾部領域がスイングするステップ(力学的過程)の間に関係をつけることもできた。この結果は、負染色電子顕微鏡像の解析から提唱されたダイニンの"パワーストローク"説に合致するものであった。
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