桿体に比べ、錐体では光応答が短時間に終了し、かつ、光感度が低い。我々は、理由の一つとして錐体では視物質のリン酸化が素早いためであることを示してきた。本年度は錐体でのこの素早いリン酸化の機構を明らかにした。具体的には、「錐体における素早いリン酸化の実時間での測定」、「素早いリン酸化をもたらす分子種の同定」である。 1.素早いリン酸化の実時間での測定 光照射後、ミリ秒単位で強酸を滴下し、反応を迅速に停止する装置を作成した。この装置では強酸の滴下に30ミリ秒程度、また、反応を停止するのに数十ミリ秒かかることが分かった。これらの時間を考慮した結果、錐体では視物質のリン酸化は光照射後150ミリ秒位から開始し、半分量の視物質がリン酸化されるのに約500ミリ秒かかることが明らかになった。リン酸化の初速度を桿体と錐体とで比べると、リン酸化活性は錐体の方が20倍程度高いことが明らかになった。 2.分子層の同定 錐体での素早いリン酸化は、錐体の視物質に錐体型のキナーゼが作用することによって生じる。素早いリン酸化は錐体の視物質に原因があるのか、錐体キナーゼに原因があるのかを明らかにするために、錐体視物質を桿体のキナーゼ(GRK1)で、また、桿体視物質を錐体のキナーゼ(GRK7)でリン酸化する実験を行った。その結果、視物質が何れであっても、GRK7の場合で素早いリン酸化が生じた。以上の結果から、錐体での素早いリン酸化はGRK7によることが明らかになった。見かけのリン酸化活性は、錐体の方が桿体より20倍程度高いが(上述)、これはGRK7活性が非常に高く、酵素反応が飽和しているためであり、飽和のない条件では錐体のリン酸化活性は桿体の500倍も高いことが明らかになった。これは、錐体では光応答が飽和しにくいことと対応していると考えられる。
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