ヒトにおいて、単一遺伝子異常により比較的若年期に種々の老年病を発症し老化症状を呈する早期老化症の原因遺伝子の同定・分子レベルでの解析により、ゲノムDNAの安定化機構の破綻が老化において重要な要因の一つであることが明らかになってきた。DNA傷害性ストレスシグナルカスケードにおいて、Chk2を中心にp53の安定化及び活性化のメカニズムおよび寿命制御転写因子FOXOの活性化の分子メカニズムを明らかにするとともに、ゲノムDNA安定化と老化の関係を明らかにすることを目的として研究を行った。 Chk2は、Chk2はMdm2のSer78をリン酸化することによってp53タンパク質の安定化を制御していることを明らかにした。また、Chk2はp53のタンパク質安定化および転写活性化を制御することにより、DNA傷害に応答したp53による転写依存的および非依存的アポトーシス誘導機能を制御していることを明らかにした。さらに、DNA傷害に応答して誘導される細胞老化には、ATM-Chk2-p53非依存的な遅延したメカニズムによる経路によって誘導されることを示した。これらのことより、DNA傷害性ストレスシグナルカスケードの活性化による細胞死・細胞老化誘導によって、がん化を抑制するとともに、組織幹細胞の欠乏によって老化が誘導される可能性を示唆した。 FOXOに関しては、寿命延長に重要なNAD依存性脱アセチル化酵素SIRT1が、物理的、機能的かつ生理学的にFOXOと相互作用することを明らかにした。また、FOXO1が血管分化に重要な機能を果たしていることを示した。FOXOはp53と同様にDNA傷害性ストレスに応答して活性化され、DNA修復・細胞周期・細胞死に関わる遺伝子とともに抗酸化酵素郡の発現を制御していることから、DNAの安定化に寄与して老化を制御していると考えられる。
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