研究概要 |
DNAのシトシンのメチル化はほ乳類のインプリンティングをはじめとして様々な遺伝子発現抑制機構において重要なはたらきをなしている。近年、遺伝子発現の新たな抑制機構としてヒストンH3のLys9のメチル化がDNAのメチル化が発現抑制に関与していない生物も含め、より広い生物で重要なはたらきをしていることがわかってきた。しかしヒストンのメチル化とDNAのメチル化の正確な関係は今だあきらかではない。最近、NeurosporaでヒストンH3のLys9のメチル化がDNAのメチル化に必要であることがわかった(Nature,416,556-560,2002)。一方、ほ乳類ではDNAのシトシンのメチル化がインプリンディングの遺伝子発現抑制に重要な働きをしていることが知られている。そこで本プロジェクトでは、ほ乳類のインプリンティングの関与を検討するためインプリントの成立が起こる卵子の成長期における遺伝子の発現の変化をマイクロアレイを用いて検討した。その結果エピジェネティク関連遺伝子ではDnmt1,Hp1-γ,Epc1などが増加していることがわかった。Dnmt1はDNAメチル化維持酵素であり、Hp1-γはヒストンメチル化酵素のSuv39HIと結合するHP1-αのファミリーである。Epc1はpolycombのenhancerであると同時にposition-effect variegationのsuppressorであり、ヘテロクロマチンの形成に関与していると考えられている。Polycomb遺伝子のうちいくつかはヒストンのメチル化酵素であることが分かってきている。これらのことからヒストンのメチル化はインプリントの成立と関係することが示唆される。研究開始後、RNAiの機構がヒストンのメチル化のさらに上流にあることが酵母などの研究でわかってきたためRNAiのゲノムインプリンティングに与える影響を検討することにした。そのためにRNAi機構のかなめの遺伝子であるDicerの発現を低下させたマウスを用いてゲノムインプリンティングを検討した。その結果10分の1程度の低下ではゲノムインプリンティングに影響がないことがわかった。
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