研究概要 |
個人間変動と個人内変動は異なる意味を持っている。個人間変動は遺伝的に決定される要因と環境適応の結果である。これに対し,個人内変動は生体の示す短期的な不安定さの結果である。生理反応の個人差については,個人間変動と個人内変動を分離する必要がある。 個人間変動と個人内変動を分離するには同一被験者に対して反復測定が必要となる。本研究では70-75名の男性被験者に対し,心拍変動の測定を4-8回繰り返した。また呼吸コントロール3条件,姿勢3条件の組み合わせで測定を行ったため,欠測値を除いた有効データ数で3546サンプルのデータが得られた。1サンプルあたり約3分30秒のデータであり,全体では200時間程度の記録となる。本研究の被験者数はそれほど大きなものではないが,全体で見れば実験的環境で測定された心拍変動のデータとしては大規模な部類であり,特に反復測定による心拍変動の再現性に関する研究としては現時点で最大規模のものであると考えられる。 本研究から得られた主な成果は以下の通りである。 (1)安静時心拍変動の個人間および個人内変動の定量化 心拍変動の個人間-個人内変動はCV(変動係数)で40-50%と20%程度であった。対数変換した場合には14-16%と6-7%となった。 (2)安静時心拍変動の分布特性とデータ変換の関係 LF, HZF成分そのままでは分布に偏りが見られるが,対数変換もしくは全パワーに対する比率で表した場合に分布の正規性が高まった。 (3)呼吸コントロールによる再現性の向上 4秒周期の呼吸コントロールでは心拍変動測定の再現性は向上しないことが明らかになった。 (4)低周波変動の定量化による脈拍測定時の誤差推定 10秒や15秒などの短い測定から推定される毎分心拍数の推定精度にはLF, VLFの心拍変動の低周波成分の大きさに依存していることを明らかにした。
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