中国南西部の四川省、雲南省、チベット自治区にまたがる三江地域に平成15、16年の秋に2度訪れ、これまで明らかにされていなかった、この地域における栽培及び野生ソバの分布を明らかにした。特に、ソバの野生祖先種Fagopyrum esculentum ssp.ancestraleが蘭倉江の谷、及び金沙江の谷に自生しているが、サルウィン河の上流である怒江の谷には自生していないという事実の発見はこの地域が栽培ソバの起原地であるという仮説の根幹をなすものである。この栽培ソバの三江地域起原説は栽培ソバ集団とソバ野生祖先種の集団に関するアロザイム変異の研究と16のプライマー組み合わせを用いたAFLP分析により確かめられた。つまり、この三江地域に分布するソバ野生祖先種の集団が他の地域(例えば、四川省木里県、塩源県など)に分布するソバ野生祖先種集団よりもより栽培集団に近縁であることが判明した。これは、この三江地域に自生していたソバ野生祖先種の集団が栽培化された故に栽培ソバと三江地域のソバ野生祖先種集団は近縁であると説明される。 ついで、これら実験結果および結論をより精密に分子レベルで検証する目的でSSRRマーカーの開発に取り組んだ。決定した塩基配列に基づき、153のマイクロサテライト遺伝子座についてプライマーを設計した。このうち64対のプライマーは予期された大きさのDNA断片を1個増幅した。またこのうち48は栽培ソバにおいて多型を示し、有効なマーカーであると思われる。これらプライマーのあるものははダッタンソバ、ソバ野生祖先種でも有効であることが確かめられた。現在これらSSRマーカーを用いて、栽培ソバの起原に関して研究をすすめている。
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