研究概要 |
Atriplex nummulariaの葉における塩応答遺伝子をクローニングするにあたり,個体差による影響,概日リズムによる影響,ストレスにより成長が停止することによる影響など,耐塩性とは無関係の遺伝子がクローニングされることを避けるため,材料には一母体由来の挿し木を塩処理区と対照区に用い,連続照明下で育成させ,塩処理に500mM NaClを用いた。そしてAnSIHP1 (A.nummularia salt-induced hydrophilic protein 1), AnLTP (A.nummularia lipid tansfer protein), AnSAMS (A.nummularia S-adenosyl-L-methionine synthetase), AnCMO (A.nummularia choline monooxygenase)等の6つの塩応答遺伝子をクローニングした。 AnSIHP1のmRNAは葉,茎,根において塩処理下で発現が上昇し,AnSIHP1がコードする蛋白質はそのアミノ酸組成からhydrophilinの一種であり,その親水性の高さが塩ストレス下のA.nummularia植物体で何らかの役割を持つことが示唆される。AnLTPは,葉と茎で塩処理下mRNAの発現が上昇しが根では検出されなかった。この遺伝子からのアミノ酸配列は他の植物種のlipid transfer proteinとアミノ酸相同性を持ち,一般的に推定されている役割から,AnLTPはクチクラ層の合成に関わると考えられる。 AnCMOは他の植物のCMOと非常に高いアミノ酸相同性を持ち,この遺伝子がコードする蛋白質は,ベタイン合成に必要な酵素であり,ベタインは浸透圧調節物質として耐塩件に関わることが知られている。AnSAMSがコードする蛋白質はSAM合成活性を持つと考えられ,AnSAMSのmRNA量も蛋白量も塩処理下の葉と茎において上昇した。AnSAMSとAnCMOのmRNAの発現パターンが極めてよく似ており,この二つの酵素を連動して誘導と抑制がなされ,ベタイン生成が制御されていることが認めらFれた。 モデル植物シロイヌナズナのMitogen-Activated Protein Kinase Kinase(MAPKK)の一つであるAtMEK1は、高塩処理により急速に活性化し、下流因子であるMAPK(ATMPK4)をリン酸化する。そこで、AtMEK1の上流に位置するMAPKKKの同定を試みた。従来、AtMEK1の上流MAPKKKは、AtMEKK1であると考えられていたが、本研究でこの経路が成立しないことが明らかとなり、AtMEKK1は、AtMEK4の上流因子であることが判明した。そこで、他のMEKKの検索の必要性が生じ、現在、シロイヌナズナの10種のMEK全ての遺伝子のクローニングを行っている。今後、これらのもの全てとAtMEK1の相互作用やリン酸化能の検索を総合的に実施し、塩ストレスで活性化するAtMEK1カスケードの構成因子を同定する。
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