研究概要 |
アカザ科の塩生植物Atriplex nummulariaは適合溶質ベタインを大量に蓄積し強い耐塩能力を発揮している。この作物の塩の有無に係わらず同様の成長が見られる栽培系を確立し、高塩条件で特異的に発現する遺伝子をスクリーニングした。ベタイン合成のキー酵素であるcholine monooxygenase(CMO)遺伝子、またその前駆物質コリンの生成に関わるphosphoethanolamine N-methyltransferaseとS-adenosyl-L-methionine(SAM) synthetase遺伝子をクローニングした。これらの遺伝子のmRNA発現は塩ストレス下、脱塩処理時、慨日周期において経時的に非常に似通った発現パターンを示した。また、同じアカザ科で比較的耐塩性の強い作物であるフダンソウではこれらの遺伝子に加えCMOにより合成されたベタインアルデヒドをベタインに変換するbetainealdehyde dehydrogenase、SAMの再生に関わるmethionine synthetaseとS-adenosyl-L-homocystein hydrolaseの遺伝子のクローニングを行い、ノーザン解析により転写の連動を調査し、フダンソウでもこれらの遺伝子は塩ストレス、日周期などで連動して発現し、ベタイン合成系の酵素群が連動して制御されていることが認められた。また、シロイヌナズナにおいて、傷害ストレス時に作動するMAPキナーゼカスケード(AtMEKK1-AtMEK1-ATMPK4)を同定した。このカスケードの最初の段階であるAtMEKK1がどのようにストレス応答的に活性化するのかを検討した。まず、本酵素の調節領域はC-末端領域に存在すると考え,その領域の除去を試み常時活性化能を有する変異体(AtMEKK1Δ166)を作成し,酵母のツーハイブリッド法,免疫沈降法により,シロイヌナズナからクローニングした9種のMEK遺伝子から,AtMEK1が強くリン酸化されることを明らかにした。また,非ストレス下においてはAtMEKK1とAtMEK1分子との結合性が検出されないのに反して、傷害ストレス後、瞬時に二つの分子が相互結合することを示し,AtMEKK1-AtMEK1シグナル経路が、傷害ストレス時にのみ作動していることと考察した。
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