研究概要 |
旧東ドイツから導入され,栄養繁殖によって維持されてきたアスパラガス(Asparagus officinalis L.)'Gold Schatz'の2系統のうち,一つの系統は花の形態形成が変異するホメオティック突然変異であると推定された。そこで,この系統に着生した花の外部および内部形態を詳細に調べた。その結果,本来雄蕊が形成されるはずのWhorl 3の位置に,子房に類似した器官が発達することがわかった。花の発育にともない子房様の構造の上部は花糸と平行して伸び,柱頭部分は融合していた。また,組織観察によりこの子房様器官の内部に,胚珠状の構造が見い出された。一方,本来の子房は正常に発育するとともに内部に胚珠を分化し,一部の花は果実を着生した。以上の結果から,この系統はMADS-box遺伝子群のうちのクラスB遺伝子の機能に変異を生じたホメオティック変異であることが示唆された。また,通常のアスパラガスの花被はいずれも花弁様の形態を示すが,この系統の花では外花被,内花被とも成熟後まで緑色が残り小型化していた。この形態変異は,Whorl 1においてもクラスB遺伝子が機能するとする改変ABCモデルによって矛盾なく説明された。さらに,形態学と平行して,アスパラガスの3つのクラスB遺伝子(AODEF, AOGLOA, AOGLOB)の単離と発現解析を行うとともに,これらの遺伝子をプローブにして,野生型(メリーワシントン500W)とのMADS-box遺伝子の発現パターンの違いをノーザンハイブリダイゼーション法により調べた。その結果,'Gold Schatz'の変異系統の花では,DEF-like遺伝子およびGLO-like遺伝子の発現が,野生型の花に比べ著しく劣っているか,あるいは全く起きていないかのいずれかであることが明らかとなった。現在,発現解析によって変異をもたらした遺伝子の特定を進めている。
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