研究課題
基盤研究(B)
イネ萎縮ウイルスの12本に分節したゲノムがコードする12種類のタンパク質の内、植物での増殖のみに必要なもの、昆虫(ツマグロヨコバイ)での増殖みに必要なもの、および両者での増殖に共通に必須なものを明らかにする目的で下記の異なる宿主環境でウイルスを維持した。(1)植物-昆虫と交互に感染をくり返すもの(普通系統)。(2)ウイルス感染した植物を温室内で維持、生長後に切り返し、これを繰り返して植物のみで維持し、昆虫による媒介性を喪失したもの(非伝搬系統)。(3)雌雄ともウイルスを保毒した媒介昆虫を一定条件で飼育した系統(昆虫系統)。(4)媒介昆虫の培養細胞に接種したウイルスを継代、植物の介在を無くし、昆虫細胞のみで維持した系統(培養細胞系統)。本年度はこれらの内、(3)の昆虫系統を中心に(1)と比較して解析した。本ウイルスの普通系統を獲得した雌雄のツマグロヨコバイを約10日間隔でエサを交換し、5年間維持した後代の昆虫は全てウイルスを保毒しており、特定の条件下においては極めて高率にウイルスが維持されることが明らかになった。本ウイルスをイネ萎縮ウイルスの昆虫系統と命名した。昆虫系統のイネへの感染率は4〜9%、普通系統が32〜35%であり、本系統は元の普通系統に比べて植物との親和性が低下していた。また、昆虫系統に感染したイネは普通系統に感染したものより激しい萎縮症状を示し、昆虫を主体に維持される過程において元の普通系統とは異なる形質のものが選抜ざれたものと想定された。次にイネに感染したウイルスの濃度を酵素抗体免疫法(ELISA)で検定したところ、昆虫系統に感染したイネは普通系統に感染したものよりも症状が激しいにもかかわらず、イネ体内のウイルス濃度は普通系統の約50%と低かった。この結果はウイルス系統の感染による病徴の程度とウイルス濃度との間には必ずしも相関性はないことを示している。昆虫系統に感染イネからの昆虫によるウイルスの獲得、イネへの伝搬は普通系統よりも,低い傾向が認められた。次に、植物ウイルスが無脊椎動物である昆虫によって100%維持される機構を解析する目的で経卵伝搬試験をおこなったところ、供試した450卵の全てがウイルスを有していた。イネによる昆虫の飼育間隔等を勘案すると、本昆虫系統は100%媒介昆虫ツマグロヨコバイの卵を通じて次代に伝搬しており、ウイルスの維持に植物の直接の介在はないものと考えられた。本ウィルスの12種タンパク質を各抗体を用い、ウエスタンブロッティング法によって検定したところ、植物のみで維持した場合には一部のタンパク質が欠落する(Tomuruら、1997)が、昆虫系統では全でのタンパク質が検出された。組織免疫電子顕微鏡法等によっても全てのタンパク質が検出された。以上の結果から、媒介昆虫ツマグロヨコバイで増殖し、イネに伝搬するイネの重要ウイルス病原であるイネ萎縮ウイルスは昆虫起源である可能性が考えられた。
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