イネ萎縮ウイルスを構成する12種タンパク質の感染細胞内での動態を解析したところ、非構造タンパク質Pns12で構成される球状の封入体が認められた。本封入体にやはり非構造タンパク質であるPns6及びPns11が集積した。この封入体の内部でウイルスのゲノムRNAが合成された。次に、封入体の内部において、ウイルスの内殻を構成する構造タンパク質であるP1、P3、P5およびP7が集積、ウイルスの内殻粒子を形成した。その後、ウイルス粒子の外殻を構成するP2、P8およびP9が封入体の周縁に集積、アセンブリーした。上記結果より、本封入体はバイロプラズマと呼称されるウイルス合成工場であると考えられ、一連のウイルス粒子の構造構築プロセスと各段階におけるウイルス蛋白質の役割が明らかになった。また、非構造タンパク質であるPns10は径約85nmのチューブルを形成し、これを利用してウイルスが隣接細胞へ安全に移行することが明らかになった。 下記のウイルス系統を維持し、解析に用いた:本ウイルスを(1)植物-昆虫と交互に感染をくり返すもの(普通系統);(2)ウイルス感染した植物を温室内で維持、生長後に切り返し、これを繰り返して植物のみで維持し、昆虫による媒介性を喪失したもの(非伝搬系統);(3)雌雄ともウイルスを保毒した媒介昆虫を一定条件で飼育した系統(昆虫系統);(4)媒介昆虫の培養細胞に接種したウイルスを継代、植物の介在を無くし、昆虫細胞のみで維持した系統(培養細胞系統)。非伝搬系統ではP2の他にPns10が発現していなかったが、昆虫が介在して維持された他の3系統では12種のタンパク質全てが保持されていた。本結果から、本ウイルスは媒介昆虫においては12種全てのタンパク質を必要とするが、植物のみで増殖するためにはP2とPns10タンパク質は必要ない分子であることが判明した。
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