寄生蜂のうち寄生後も寄主を発育させることでより多くの養分を利用できるように進化した寄生蜂群koinobiont類は、非常に巧妙なメカニズムを使って寄主を制御している。外部寄生蜂は、卵から孵化した後寄主の外部から養分を摂取するために寄主脂肪体を壊すことで体液を富栄養化していることはすでに明らかにしたが、体外からどのようにしてその体液を吸っているのか全くわからなかった。外から口を伸ばして寄主の表皮細胞を貫通して体液を吸っているようには見えず、外部にしみ出てきた富栄養化体液をなめているように観察されていた。しかし昆虫の体液は空気にふれると、フェノール酸化酵素(PO)の作用で黒化する。富栄養化体液は、寄主体外に取り出しても全く黒化しないことからこの酵素の作用を抑制していることが考えられ、その作用が寄生時に注入される毒液にはないことを確かめた後に、幼虫の唾液に存在すると予測した。そこで寄生蜂幼虫の唾液を時間をかけて集め、唾液にPO活性を抑制する作用があることが明らかになった。現在この抑制作用を持つ活性分画を分析中である。一方内部寄生蜂のテラトサイトは発育とともに多くの糖タンパク質を生産していることが明らかになってきた。テラトサイトが脂肪体に付着しその細胞外マトリックスを分解している部分はアモルファスな物質が存在することから、この糖タンパクの関与が示唆されていた。寄生後8日目のテラトサイトを集め、糖タンパクの糖部分の解析を行ったが、既知の糖とは違った所に分画される。現在さらに検討中である。さらに内部寄生蜂の共生ウイルスであるポリドナウイルス(PDV)の持つ遺伝子とハイブリするRNAの発現が後期課程のテラトサイトに発現してくる。これを現在クローニング中である。寄生蜂のPDVがテラトサイトで発現することで発生後期の寄主制御を行っていると思われる。
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