研究概要 |
哺乳類と類似した複合型のN型糖鎖付加能力を有するサクサン由来AnPe細胞とバキュロウイルスベクターを用いた実用的な糖タンパク質生産系を構築するために,サクサン核多角体病ウイルスA株の全ゲノム配列を決定し,宿主範囲決定やタンパク質生産効率に関わる遺伝子群およびそれらのプロモーター配列を含む全てのORFとゲノム構成について,AcNPVなど他のバキュロウイルスと網羅的かつ包括的な比較を行った.さらに,ゲノム解析結果を利用して,強力なp10プロモーターを利用したトランスファーベクターおよびポリヘドリンとp10プロモーターの両方を利用して2種類の遺伝子を同時発現できるトランスファーベクターを構築した.これらの成果により,AnPe細胞を基盤とした有用糖タンパク質生産系の確立に役立つ知見及び技術が得られた. また,カイコ由来BmN4細胞の形質転換のために開発したpiggyBacベクターの改良を行い,外来遺伝子が容易に挿入できるユニークな制限部位を有するpPIGΔを構築した.このベクターにサケ科魚類の造血組織壊死症ウイルス(IHNV)のウイルス膜糖タンパク質(IHNG)遺伝子を挿入してBmN4細胞の形質転換を行ったところ,バキュロウイルスによる発現ではうまく生産できなかったIHNGを細胞膜上に持続生産することに成功し,形質転換ベクターとしての有効性が実証された.したがって,本研究課題の遂行により得られたマイクロアレイ分析による網羅的な遺伝子発現パターンに関する知見に基づいて合理的の考案した遺伝子操作法を,改良型piggyBacベクターを用いて実行すれば,カイコ培養細胞の代謝改変を効率よく達成できる見通しが得られた.また,このpiggyBacベクターがカイコ以外のチョウ目昆虫培養細胞の形質転換にも利用可能であるという結果も得られた.
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