研究概要 |
本研究課題では、有用タンパク質生産に役立つ昆虫細胞発現系の創出を目的として、チョウ目昆虫培養細胞の遺伝子発現パターンを網羅的に解析し,その結果に基づいて翻訳後修飾反応などの代謝特性を人為的かつ合理的に改変するための遺伝子操作技術の開発を試み,以下の成果を得た. 1.カイコ由来BmN4細胞とBoMo細胞における遺伝子発現の細胞株間差異とBmN4における培地依存的な遺伝子発現を,それぞれcDNAマイクロアレイとオリゴDNAアレイを用いて網羅的に分析し,細胞株あるいは培地特異的に発現量が増減する遺伝子群を同定した.特に,培養液により発現量に大きな差が見られた遺伝子のプロモーターを利用すれば、培地成分による有用タンパク質生産制御技術が開発できる可能性が示唆された. 2.サクサン由来AnPe細胞では,哺乳類型の複合型N型糖鎖付加が起こること,ならびにAcNPV感受性が培地依存的に変化することを明らかにした.AnPe細胞における培地依存的遺伝子発現をディファレンシャルディスプレイ(DD)により網羅的に分析し,発現量に培地間差異の転写塵物を同定した。これらの遺伝子発現を操作すれば,AcNPV高感受性の哺乳類型糖タンパク質生産用AnPe細胞が創出できる可能性が示唆された. 3.カイコ培養細胞を効率良く形質転換するためのpiggyBacベクターとして,カイコのアクチンA3プロモーターの制御下で目的遺伝子を発現し,ショウジョウバエのhsp70プロモーターの制御下で選抜用のピューロマイシン耐性遺伝子を発現するベクターを構築し,これまでバキュロウイルスベクターではうまく生産できなかった膜糖タンパク質を昆虫細胞膜上に発現することに成功した.このベクターを利用すれば,カイコのみならずチョウ目昆虫培養細胞を代謝改変できる可能性が示唆された.
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