カイコにおける二型精子の分化メカニズムについては、有核精子形成ラインから無核精子形成ラインへの切り換え要因を見出すことが中心課題である。精子形成ラインの切り換えが、(1)個体発生のいつ、(2)精子形成過程のどの段階で起こるかについて、さらに、(3)分化の指標物質の細胞内動態を明確にした。また(4)体細胞系列のシスト細胞の分化も明らかにし、二型精子の意義につなげた。 (1)精子形成ラインの切り換えを再現する培養系は、体液を採取する個体の発生時期を厳密にすることによって、確立できる目途がついた。 (2)減数分裂第一分裂の前期に相同染色体の対合の有無が最も早く現れる二型の分化の特徴である。 (3)染色体の行動制御に関わる細胞骨格の微小管とさらに微小管形成中心の機能を有するガンマーチューブリンを分化の指標物質の候補とした。カイコにおけるアミノ酸配列を明らかにし、ヒトの抗原に対する抗体がカイコのガンマーチューブリンを識別することを確認した。その上で、間接蛍光抗体法でガンマーチューブリンの細胞内動態を追跡したところ、精母細胞において両タイプに分布の差が見られた。 (4)精母細胞集団の周囲を取り囲むシスト細胞は、変態した精子が束をなす時期から、二型の相違が現れることを多糖類を染め出すPAS染色を行うことによって明確にした。有核型ではすべてのシスト細胞が後期の精子変態時期までPAS陽性を示した。貯精嚢に移行した有核型精子束はシスト細胞を消失しているが、PAS陽性物質の層が周囲を取り囲んでいた。一方、無核型精子束ではヘッドシスト細胞のみがPAS陽性であり、それも精子変態後期には陰性となり、シスト細胞は無核精子が精巣を出る以前に崩壊する。有核型精子がシスト細胞を欠いていても束化を維持していること、また束を解離した無核精子との共存が交尾雌への移送に必要であることと関連した特徴と考える。
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